割合の同等性検定について、次のような例を考えてみます。
(例)
ある金属加工会社は2つの生産ラインA とB で同じ金属部品を加工しており、不適合品の発生する割合が同等であることを示したい。
同時間、同環境で生産された金属部品について、ラインAとラインBからランダムにサンプルを抽出し不適合品(不良品)の数を調べた結果は以下の通りである。
ラインA:290個中33個が不適合品
ラインB : 250個中28個が不適合品
不適合率(不良率)の差に対する同等性のマージンを0.03(3%)としたとき、生産ラインAの不適合率と生産ラインBの不適合率の同等性がいえるかどうか。
二標本割合の同等性検定
先だって本ブログシリーズのPart 1では平均に対する同等性検定を取り上げましたが、今回のPart 2では割合の同等性を取り上げます。製造業の品質管理で関わることとして、今回の例のように不適合率(不良率)が挙げられるでしょう。
今回の例では2つの生産ラインにおける不適合率を比較しており、以下のように"不適合率の差が0である"ことが、いわゆる不適合率が同等であることを示しています。
(生産ラインAの不適合率) - (生産ラインBの不適合率) = 0
ただし全数検査でない場合、それぞれのラインから取られたサンプルより不適合率を計算し、同等かどうかを判断する必要があります。その際、同等性の許容域(マージン)をあらかじめ決めておきます。
二標本の割合を比較する場合、2つの割合の差がこれぐらいであれば許容できる範囲(マージン)を指定することになります。この例では、0.03 ( 3%) としています。
JMPの操作とレポートの解釈
JMPで同等性の検定を実行してみましょう。
まずデータとしては、下図のように4行にわたり生産ライン、適合/不適合 ごとの度数を入力しておく必要があります。列「生産ライン」、「適合/不適合」は名義尺度、「度数」は連続尺度にしておきます。
[分析] > [二変量の関係] で、下図のようにY, X, 度数を指定します。
分割表分析のレポートが表示されます。
レポートによると、ラインAの不適合率は11.38%、ラインBの不適合率は11.20% であることがわかります。その差は0.18% です。3%をマージンとしているので、これぐらいの差であれば同等性が言えそうだなと思うわけです。
割合の差(リスク差)に対する同等性検定を実施するには、レポート左上の赤い三角ボタンから [同等性検定] > [リスク差] を選択します。
その後に表示されるダイアログで、Yでの対象となるカテゴリを"不適合"に、マージン(差)を 0.03 ( = 3%) と指定します。
「リスク差の同等性検定」のレポートが表示されます。このレポートの見方は基本的に平均の同等性検定のものと同様です。「TOST検定」のレポート右側には、判定として"実質的同等性をいえない" との記述があります。これは「フォレストプロット」でマージンとして±0.03 の範囲(青色の区間)に、割合の差に対する90%信頼区間がすべて含まれていないことからもわかります。
2つの割合の差は0.018 と0に近いので同等性が言えそうな気もしますが、90%信頼区間をみると -0.044~0.047 となるので0.03のマージンであれば同等性は言えないのです。
サンプル数を増やしたケース
上記の例では同等性を言えなかったのですが、仮に次のようなケースであればどうでしょう。
ラインA:2,900個中330個が不適合品
ラインB : 2,500個中280個が不適合品
最初の例の数字を単純に10倍したものです。そのため、ラインAとラインBの不適合率は最初の例と同じになります。
このケースにおける「リスク差の同等性検定」のレポートを参照してみます。フォレストプロットをみると、同等性とみなす区間に差の90%信頼区間が完全に含まれているので、同等性が言えることになります。
サンプル数が大きいため、"割合の差の推定値" の誤差が小さくなったことが影響しているのです。
同等性の検定ではマージンをどのように決めたら良いのか、そのマージンに対してどれぐらいサンプル数をとれば良いかは難しい問題です。どうしても過去の試験の結果や固有知識などが必要になってくる場面もあります。
今回は2回のシリーズにわたって、製造業で役立つ「同等性検定」の例を示しましたが、実務で使えそうな機会があれば是非とも使ってみてください。
by 増川 直裕(JMP Japan)
参考:オンデマンドセミナー
「製造業向け JMPを使った統計的検定手法の概要と利用例」オンデマンド(日本語)
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