ロバストエンジニアリング(Robust Engineering)とは、工程中に避けられないばらつきが存在しても、安定して規格内の製品を生産するための技術です。
ここでいう「安定」とは、気温や湿度といった製造環境の変動(誤差因子)に左右されず、品質を維持できる状態を指します。誤差因子は通常制御が困難ですが、製品の応答に影響を及ぼす要因の多くは制御可能な因子(制御因子)として扱われます。
したがって、誤差因子が変動しても製品が仕様限界内に収まるようにするためには、適切な制御因子の条件(水準)を探索・設定する必要があります。
このとき、JMPでは「予測プロファイル」や「シミュレータ」を用いて、最適な制御因子の条件を見つけることができます。

本記事では、例題を通してその手順を紹介します。
例題:穴あけ加工で穴径を10mm に安定させるには
ある材料加工会社では、穴あけ加工における穴径の仕様限界を 9.9mm~10.1mm と定めています。安定的に目標値10mmの穴を得ることが望まれます。
ここで、次の2つの制御因子と2つの誤差因子を考慮します(すべて連続因子)。
制御因子
A : 回転数(rpm) [1500 – 3500]
B : 送り量(mm/rev) [0.05 – 0.2]
誤差因子(制御できない因子)
N1 : 材料温度(℃) [15 – 30]
N2 : 工具摩耗量(mm) [0 – 0.1]
まずは「カスタム計画」を用いて、応答(穴径)、制御因子、誤差因子すべてを含む実験計画を作成しました。モデルにはすべての主効果と2次交互作用を含め、実験回数は12回としました。
計画を作成し、実験して応答「穴径(mm)」を入力したデータテーブルを示します。

応答の列である「穴径」には、以下のように応答変数の限界と、仕様限界が設定されています。

このデータに対して「モデルのあてはめ」(またはデータテーブルに付加されるスクリプト)を実行し、レポート「予測プロファイル」を参照します。

ここでは、誤差因子「材料温度」、「工具摩耗量」の値をいずれも実験範囲の中央に固定し、「満足度の最大化」を用いて目標値10mmを達成する制御因子の条件を探索します。
因子をある値に固定するには、Altキーを押しながら因子のグラフをクリックし、[因子設定のロック] にチェックを入れます。(チェックが入った因子では、因子の値を示す赤い点線が実線になります。)

満足度の最大化を行った後の予測プロファイルを示します。誤差因子が因子範囲の中央に固定された状態で、制御因子の設定値は「回転数」= 1481.7 、「送り速度」=0.17386 となり、このとき応答「穴径」の予測値はちょうど10となります。これは応答の目標値に一致します。

注意:目標値を達成する因子設定の組み合わせは1つとは限らないので、分析結果がここで紹介するものと一致しないこともあります。
また、この結果を等高線で見るために「等高線プロファイル」も表示します。応答の目標値は10で、仕様限界は9.9~10.1です。赤色の線はY=10の等高線であり、陰のない白い領域は仕様限界内を示します。

今回の例において、回転数=1481.7、送り速度=0.17386は等高線上の点ですが、あくまで一例です。この等高線上のすべての点が目標値を満たします。
ただし、この設定は誤差因子を中央に固定した場合のものです。実際の誤差因子は制御できず、実験のたびに変動します。そのため、誤差因子が変動しても目標値を達成できるような、すなわちロバストな制御因子の設定が求められます。
シミュレータによる検証
指定された仕様限界と目標値に対する、これらの因子設定の有効性を評価するために、予測プロファイルのオプションである[シミュレータ]を用います。
シミュレータでは、モデルの因子と予測にランダムな誤差を追加してモンテカルロシミュレーションを実行できます。今回の例では、因子を最適な設定で固定し、制御できない因子に乱数を生成します。シミュレータによって応答が仕様限界外になる割合を調べることができます。
ここでは、誤差因子「材料温度」はN(22.5,3)、「工具摩耗量」はN(0.05,0.02)からのランダムな値が割り当てられる設定をしました。
設定後、[シミュレート] ボタンをクリックすると10,000回の乱数シミュレーションが行われ、そのうち仕様限界内に収まらなかった割合が不適合率として表示されます。

上記の例では、10,000回のシミュレーションのうち1,132回が仕様限界 [9.9 - 10.1]を外れたため、不適合率は0.1132となりました。
注意:応答変数の値も、モデルにおける因子だけでなくランダムな誤差による影響も受けるとも考えられますが、ここでは応答変数に対するランダム誤差は加えていません。
これにより、誤差因子を中央に固定した条件で、回転数が1481.7rpm、送り量が0.17386mm/rev のとき、穴径の予測値は目標値である10mmとなります。しかし誤差因子が変化すると、この条件では約11.3%が規格外となることが分かります。
この材料会社にとって11.3%の不適合は許容できず、数%程度に抑える必要があります。
工程をロバストにするアプローチ
工程をロバストにするには、応答曲面の誤差因子に関して最も平坦なところに目標値を合わせ、誤差因子が工程に及ぼす影響を最小限に抑えるアプローチが有効です。
数学的には、応答を各誤差因子について一次微分した式(1階導関数)が0 になるような条件を求めます。具体的には、(予測式Y を N1で偏微分した式)≒0 かつ (予測式Y を N2で偏微分した式)≒0 という条件を加えます。JMPでは、微分式に満足度の値を指定することで条件を設定できます。
このアプローチは[グラフ]メニューにある [プロファイル] プラットフォームで誤差因子を含む列を指定することにより実行できます。
- モデルのあてはめのレポート左上にある赤い三角ボタンから [列の保存] > [予測式] を選択し、データテーブルの最後に予測式の列を追加します。

- メニューバーから [グラフ] > [プロファイル] を選択し、手順1で作成した「予測式 穴径(mm)」を [Y, 予測式]に指定し、左下の[誤差因子の指定]にチェックを入れて[OK] をクリックします。
- 誤差因子の選択ウィンドウにおいて、今回の誤差因子である「N1:材料温度(℃)」、「N2:工具摩耗量(mm)」を選択します。

表示されたプロファイルで満足度の最大化を実行すると、「Yを目標値に近づける」と同時に「誤差因子に対する偏微分を0に近づける」因子設定が求められます。

満足度の最大化の結果、誤差因子に対する予測式のグラフは以前より平坦になっていることが分かります。これは誤差因子の変動に対してロバストであることを示します。
このように、「プロファイル」で誤差因子を設定したとき、予測プロファイルに誤差因子で偏微分した微分式のプロファイルが追加され、この式に対して、値0で満足度が1に近くなるような満足度の設定が自動的に行われます。
また、この設定でシミュレータを実行すると、不適合率は0.0275となり、大幅に改善されました。

まとめ
JMPを用いたロバストエンジニアリングについて、次の手順で実施する方法を説明しました。
- 誤差因子と制御因子を含む実験計画を作成し、応答値を入力する。
- モデルをあてはめ、予測式を保存する。
- 「プロファイル」で誤差因子を指定する。
- 予測プロファイルで満足度の最大化を行う。
- シミュレータを用いて不適合率を算出し、因子設定のロバスト性を検証する。
by 増川 直裕(JMP Japan)
Naohiro Masukawa - JMP User Community
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