本記事では、医薬品の分析法開発における実験計画法(DOE)をJMPを用いて実施する例を紹介します。
近年、分析法の開発に関するガイドラインである ICH-Q14の整備が進んでおり、"より進んだ手法を活用した分析法"が注目されています。
分析法の開発において品質を科学的根拠に基づいて検討する手法は、AQbD(Analytical Quality by Design)と呼ばれており、その実現方法の一つとして、実験計画法(DOE)の活用が提唱されています。
例えば、以下のようなHPLCの構成において、最適な操作条件を求めることが、分析法開発の一例として挙げられます。

分析例:HPLCの操作条件最適化
目的:日本薬局方が定めるピークの完全分離(分離度 ≧ 1.5)を実現する分析法を開発する。
この目的を実現するために、実験計画法の考え方に基づいて実験を行い、得られたデータより完全分離を達成できる操作パラメータとその条件を求めていきます。
実験計画法では、最適化やモデル化の対象となる特性値を「応答」と呼び、分析法開発では分離度やピーク数などが該当します。一方、応答に影響を与えると考えられる操作可能なパラメータは「因子」と呼ばれ、HPLCではカラムの温度や移動相の流量などが該当します。
本例では、"多くの因子から重要な因子を絞り込むための実験(スクリーニング実験)"と、"スクリーニングで絞り込んだ因子を用いてより精度の高いモデル(応答曲面モデル)をあてはめ、最適条件を求める実験(最適化実験)"の2つのステップで検討を行います。
- スクリーニング実験:応答に影響を及ぼすと考えられる多数の因子から、効果のある因子を抽出する
- 最適化実験(応答曲面):応答の目標(最大化、最小化など)を満足するような、因子の設定値を求める
JMPでは、代表的な計画作成方法である「カスタム計画」を用い、以下の手順で分析を進めていきます。
1. スクリーニング実験
目的:分離度に影響を与える要因をスクリーニングする。
リスクアセスメントの結果、分離性能に影響を与えると考えられる5つの因子(下図黄色で示したもの)を選定しました。

因子に関する条件は以下の通りです。
因子 |
役割 |
下限 |
上限 |
pH |
連続 |
7 |
9 |
Column Temp(℃) |
連続 |
35 |
45 |
ACN(%) |
連続 |
30 |
50 |
Flow Rate (mL/min) |
連続 |
1.4 |
1.6 |
Column Type |
カテゴリカル |
C1,C2,C3,C4 |
pH: 移動相の緩衝液のpH、Column Temp: カラムの温度、ACN(%): 移動相の有機溶媒(アセトニトリル)の割合
Flow Rate: 移動相の流量、Column Type: カラムの種類(C1~C4の4種類)
※本事例は、イソクラティック溶離(移動相の組成が一定)の例です。
計画の作成
- 「カスタム計画」を起動し、「応答」、「因子」の設定、「モデル」の設定を行います。
- ここではモデル(スクリーニングの対象となる因子)として、主効果と交互作用(「pH*Column Temp」、「pH*ACN」、「pH*Flow Rate」、「Column Temp*ACN」、「Column Temp*Flow Rate」、「ACN*Flow Rate」)を含めます。
- 「計画の作成」では、実験回数のデフォルト値(24回)を選択します。

応答値の入力、モデルのあてはめ
- 最適計画に基づく24回の実験が提示されるので、実験を実施し、応答(分離度)の値を入力します。
- 応答の値を入力後、データテーブル左上にある「モデル」のスクリプトを実行(緑の▷ボタンをクリック)します。すると、カスタム計画で指定したモデルがあてはめられます。

モデルのあてはめ、重要因子のスクリーニング
表示されたレポートから「効果の要約」を確認し、P値の大きい要因を順に削除する「誤差へのプーリング」により、重要因子を特定します。

本例では、重要な因子として、「pH」、「ACN」、「Column Temp」、「pH*Column Temp」 が選ばれました。
そこで、この後の最適化実験では、「pH」、「ACN」、「Column Temp」を因子として用います。
※ここでは「誤差へのプーリング」を用いて重要因子を特定しましたが、ステップワイズ法などの変数選択手法を用いる方法もあります。
2. 最適化実験(応答曲面)
このステップでは、Resolution(分離度)**に加え、N of peaks(ピーク数)も応答として設定し、応答曲面を作成、最適化を行います。
検討する応答と因子は以下の通りです。
応答 |
仕様 |
Resolution |
1.5以上 |
N of Peaks |
6以上 |
因子 |
役割 |
下限 |
上限 |
pH |
連続 |
7 |
9 |
Column Temp(℃) |
連続 |
35 |
45 |
ACN(%) |
連続 |
30 |
50 |
計画の作成
- 「カスタム計画」を起動し、「応答」、「因子」の設定をします。
- 「モデル」として[RSM] ボタンによる、応答曲面モデルを指定します。
- 「計画の作成」では、実験回数のデフォルト値(16回)を選択します。

※応答曲面モデルは、主効果と2次交互作用、2乗項を効果に含めるモデルです。
※実験回数16回で作成される計画は、「中心複合計画(CCD)」と一致します。
応答値の入力、応答曲面モデルのあてはめ
- スクリーニング実験のときと同様に応答値を入力し、「モデル」のスクリプトを実行して応答曲面モデルをあてはめます。

最適化、デザインスペースの構築
- レポート「予測プロファイル」では、予測式における因子(横軸)と応答(縦軸)の関係を視覚的に確認できます。
- 今回の目標(Resolution ≧ 1.5、N of peaks ≧ 6)を満たす因子の組み合わせを、[最適化と満足度] > [満足度の最大化]で探索します(最適化)。
- 右下図が最適化したときの設定です。pH=8.38、Column Temp=40.98℃、ACN=30%のとき、Resolutionの予測値が2.45、N of peaksの予測値が7.39になっており、応答の仕様を満たしています。

JMPの「等高線プロファイル」を使うと、因子空間における仕様を満たす領域(デザインスペース)を視覚的に確認できます。
下図は、最適化の条件における等高線です。Column Temp = 40.98℃に固定し、pHを横軸、ACNを縦軸とした場合、白色の等高線領域が仕様を満たす範囲です。この領域には、[満足度の最大化]で求めた最適値も含まれています。

デザインスペースを構築する際には、最適条件付近で確認実験(最適条件での実験を行い、得られた応答値が仕様を満たすかどうかを確認)を実施します。確認実験の結果、問題がなければ、上記の等高線図の右下にある白色の領域内から、固有技術要件も考慮した矩形の領域をデザインスペースとして設定することが検討されます。
参考情報
■新規ユーザ事例:小野薬品工業株式会社様(分析法開発に関するJMPの活用例)
小野薬品工業株式会社 | JMP
■JMPを用いた実験計画法(DOE)の基本事項と実施例(YouTube)
by 増川 直裕(JMP Japan)
Naohiro Masukawa - JMP User Community
You must be a registered user to add a comment. If you've already registered, sign in. Otherwise, register and sign in.