先日、JMPジャパン事業部で実施したイベントにおいて、ご発表された方の一人から、ルートコーズ(根本原因)を特定方法の一つとして、多変量管理図が紹介されていました。
さらに、このイベントにご参加された方を対象としたアンケートでは、この「多変量管理図」の機能が有用に感じたというコメントを多くいただきました。
多変量管理図自体は、以前から品質管理における管理図の一種として知られていますが、JMPに搭載されている「モデルに基づく多変量管理図」(MDMVCC; Model Driven Multivariate Control Chart)は、多変量の工程を監視できるだけではなく、個々の工程の全体的な変化の寄与を対話的に掘り下げて調査し、工程を診断することができます。
「モデルに基づく多変量管理図」のレポート
本記事では多変量管理図の概要や役割を説明し、JMPの「モデルに基づく多変量管理図」を活用した工程管理の例を紹介します。
多変量管理図とは
多変量管理図とは、複数の品質特性を同時に監視する管理図のことを指します。工程パラメータが複数ある場合、それぞれに一変量の管理図を作成する(一変量管理図)ことは一般的です。
それとともに、相関のある複数の工程パラメータを扱う際、その相関も考慮して管理限界を設定するのが多変量管理図です。
下図は、一変量管理図と多変量管理図を比較したものです。
赤色の点を参照すると、一変量ごとの管理図では管理限界内に収まっていたデータが、多変量(この例では二変量)の工程管理では、相関を考慮した確率楕円の外側に位置している、すなわち外れているデータであることがわかります。

上記の2つの変数を用いて作成した多変量管理図を以下に示します。

多変量管理図の縦軸であるT²は、マハラノビスの距離の2乗で計算されます。赤色の管理限界線を上回ったデータは管理限界外となり、赤色の点はいずれもT²が大きいことが確認できます。
されに、管理図上で赤色の点をすべて選択しデータテーブルに戻ると、これらの点が2019/10/15~2019/10/19の間のものであることがわかります。この期間に工程へ影響する要因があった可能性が考えられます。
「モデルに基づく多変量管理図」とその利用例
JMPに搭載されている「モデルに基づく多変量管理図」(MDMVCC; Model Driven Multivariate Control Chart)は、主成分分析やPLSモデルに基づいて多変量管理図を作成する機能です。
ここでは、主成分分析に基づき管理図を作成する例を紹介します。
データは、本ブログに添付している「Water Treatment_rev.jmp」を用います。2018年1月から2019年10月にかけて1日ごとに収集されたセンサーデータで、47つの項目についてデータが取得されています。これらを工程データとみなし、多変量管理図を描いてみます。

※JMPのサンプルデータ「Water Treatment.jmp」の変数を増やすなど一部改良したデータです。
基本操作
JMPのメニューバーから [分析] > [品質と工程] > [モデルに基づく多変量管理図] を選択し、47個の工程変数を[工程]に指定すると、以下の「PCA(主成分分析)モデルに基づく多変量管理図」のレポートが表示されます。
このレポートでは、47個の変数から抽出した13個の主成分におけるT²が示され、主成分スコアによる多変量管理図が描かれます。

管理図に引かれている赤色の線は、T²の管理限界線(UCL = 22.16)です。この値を超えた点は、多変量空間で管理限界外とみなされます。この例では45個もの管理限界外の点があります。
対話的に工程を調査
多変量管理図を見ると、最初の方にT²が200を超える点がいくつか存在します。分析者としては、次のようなことを把握したいところです。
①これはいつ発生したのか?
②管理限界外となった原因は何か?
この場合、グラフ上のデータにマウスポインタを近づけると、ホバーラベルが表示されます。ラベル上部の日付から、これが2018/3/13のデータであることがわかります。

ホバーラベルをクリックすると、レポートの右側に「T²寄与率プロット」が表示され、全変数に対する個別の寄与率が棒グラフで示されます。

寄与率プロットでは、棒グラフの色で選択したデータ行が一変量で管理外(赤色の棒)か管理内(緑色の棒)が確認できます。
さらに、寄与率プロットで特定の棒にマウスカーソルを近づけると、一変量の管理図が表示されます。この例では、変数「RD-SED-G」における 2018/3/13の点が、一変量の管理図でも下側管理限界を大きく下回っていることがわかります。

まとめると、JMPの「モデルに基づく多変量管理図」を用いると、次のような流れで工程を詳しく理解することができるのです。
多変量管理図で管理限界外になった点を確認 ⇒ グラフ上で該当の点を選択
⇒ 寄与率プロットに要因を特定(寄与率の値、一変量の管理図を確認)
主成分スコアプロットの表示
この例では主成分分析に基づく多変量管理図を作成しているため、主成分分析におけるスコアプロットも表示できます。下図は、第1主成分のスコアを横軸、第2主成分のスコアを縦軸にプロットし、95%の信頼楕円を描いたものです。

信頼楕円の外に位置する点を確認すると、第1主成分軸の左側には2018/3/13〜2018/3/16のデータがあり、第2主成分軸の上側には2018/12/10〜2018/12/13のデータがあることがわかります。
このように、特定の期間にまとまって外れ値が発生している場合は、その期間に工程上の問題がなかったかを調査する必要があります。
参考:履歴データを使用した多変量管理図
「モデルに基づく多変量管理図」では、過去のデータ(履歴データ)に基づいて、現在のデータに管理図を適用することも可能です。
例えば、上述のデータで2018年のデータを履歴データとして、2019年の工程管理をしたいとしましょう。
その際、「履歴データの最終行の行番号」に、2018年の最終行(2018/12/30)を入力すると、以下のように、履歴データ(2018年)と現在データ(2019年)で管理図が分けられ、それぞれについて管理限界が設定されます。

参考:「モデルに基づく多変量管理図」の説明動画あり!
JMPによる管理図の作成(日本語)
by 増川 直裕(JMP Japan)
Naohiro Masukawa - JMP User Community
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