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「工程のスクリーニング」の「シフトグラフ」で近年の気温上昇を検出する試み

「工程のスクリーニング」は、多数の工程を一度に評価できるプラットフォームです。各工程における工程能力や管理図の指標を算出し、重要な工程を効率的にスクリーニングできます。

 

このプラットフォームでは、次のような「シフトグラフ」を描けるのはご存じでしょうか? このグラフにより、どの工程でいつシフト(後述)が発生したのかを視覚的に考察できます。また、気になる工程についてはドリルダウンで詳細に分析できます。

Masukawa_Nao_0-1736901599147.png

本ブログでは、日本各地の気温データを一種の「工程」とみなし、気温の急激な上昇(シフト)がいつ発生したか、また観測地点ごとの上昇幅の違いについて考察します。

 

分析対象

  • 対象地域:日本の管区気象台および地方気象台(データが存在する58地点)
  • 対象期間:1995年~2024年(30年間)に対し、各年6月から8月(夏)のデータ
  • 指標:日ごとの平均気温、最高気温、最低気温について、3か月間の平均を算出し、年ごとの推移を調査

Masukawa_Nao_1-1736902102347.png

データ出典:気象庁ホームページ

 

「シフト」とは

シフトとは、時系列データにおいて急激な値の変化を指します。工程管理では、品質変化などによって特性値が急激に変化する現象を示します。

 

例えば、以下の平均気温の推移を示したグラフでは、2004年、2010年、2023年に急激な上昇シフトが生じたと考えられます(緑線部分)。

Masukawa_Nao_2-1736902801341.png

※本分析では、上昇シフトのみを対象とし、下降シフトは考慮しません。

 

各対象地域についてシフトを調べていきたいのですが、今回は58もの気象台を対象としており、それぞれに平均気温、最高気温、最低気温の3つの指標があるので、1つ1つグラフを調べていくには時間がかかってしまいます。

Masukawa_Nao_0-1736903800054.png

そこで「工程のスクリーニング」を利用して、気温のシフトを考察していきます。

 

「工程のスクリーニング」を用いたシフトの検出

[分析] > [品質と工程] > [工程のスクリーニング] を選択し、下図の手順でシフトの検出をしていきます。

 

Masukawa_Nao_0-1736909521451.png

 

[シフトの検出]オプションで、[最大の上昇シフト] を選択すると、以下のような表を出力できます。

Masukawa_Nao_4-1736904626993.png

「最大の上昇シフト」、「上昇シフト 年」は、対象期間内で"最も大きな上昇シフトが発生した年"と"そのときの上昇シフト"が示されます。

 

JMPのアルゴリズム*により求められたシフトを群内シグマ(データのばらつきを表す指標)で割り算した値が、「最大の上昇シフト」として表示されます。

 

すなわち「最大の上昇シフト」に示されている値が大きいほど、データのばらつきと比較して大きなシフトが生じていることになります。

 

* JMPでは、生データから求めたシフトではなく、外れ値を除外し平滑化処理を行ったデータに対して、シフトの大きさを算出しています。

 

シフトグラフの活用

冒頭で紹介した「シフトグラフ」は、「上昇シフト」の発生を視覚化したグラフです。

 

シフトの閾値を2としたときのシフトグラフ

下のグラフは、上昇シフトが2以上であった地域、気温(平均、最大、最小)をプロットしたシフトグラフです。

例えば、一番上にある松江気象台の平均気温について、2023年に2以上の上昇シフトが発生しています。

シフトの閾値を2にしたときのグラフシフトの閾値を2にしたときのグラフ

グラフをみると、2023年に最も多くの上昇シフトが発生しており、次に2010年に多く発生していることがわかります。

 

シフトの閾値を3としたときのシフトグラフ

上昇シフトを3以上に絞った場合は、以下のようなプロットになります。

Masukawa_Nao_1-1736906068564.png

プロットは、すべて2023年に集中しています。

 

シフトの発生点について「ドリフトグラフ」を用いることで、シフトが発生した具体的な時点や推移を詳細に調べることが可能です。

Masukawa_Nao_2-1736906178332.png

*ここでは「ドリフト」に対する説明は割愛します。

 

分析結果と考察

58の観測地域に対し、最大のシフトが発生した年を集計した棒グラフ(地点数)を示します。

Masukawa_Nao_1-1736907249115.png

平均気温、最高気温、最低気温ともに、直近3年間である2022年~2024年に集中しており、近年の温暖化傾向が顕著になっています。

 

平均気温について、各地点の最大の上昇シフトの値について、地図上に色分けしたものを示します。

Masukawa_Nao_0-1736906932486.png

東日本は西日本よりも大きな上昇シフトが発生する傾向があることがわかります。

ここでは示しませんが、最高気温や最低気温も同様の傾向を示します。

 

まとめ

  • JMPの「工程のスクリーニング」プラットフォームを用い、日本の各地点における気温のシフトを検出を試みた。
  • オプションである「シフトグラフ」を用い、気温について大きな上昇シフトが発生している時点を視覚化した。

これらの分析から、最大のシフトは2022年~2024年に多く発生しており、西日本よりも東日本で大きなシフトが確認されました。

 

東日本に住む私にとって、ここ数年の夏の暑さが「半端じゃない」と感じていた感覚が、データによって裏付けされた形となります。

 

※なお、本ブログは2024年のDiscovery Summit Japanで発表した内容の一部を基にしています。発表資料は以下のページからダウンロードできます。

Discovery Summit Japan 2024 - Handouts - JMP User Community

⇒ C3_Naohiro-MASUKAWA.pdf をダウンロード

 

by 増川 直裕(JMP Japan)

Naohiro Masukawa - JMP User Community