今年、大型契約でドジャーズに移籍した大谷選手ですが、打者として54本塁打、57盗塁という驚異的な成績を残しました。
今年もその豪快なパワーでホームランを量産しましたが、少し気になり、今年(2024年)と昨年(2023年)のレギュラーシーズンにおけるホームランの打球速度と角度を視覚化してみました。
下図の左側が今年の54本のホームラン、右側が昨年の44本のホームランに対する打球速度(Exit Velocity)と打球角度(Launch Angle)です。
※データの引用:BaseBall Savantより大谷選手のホームランデータを抽出
この図には、分布を表現する密度(JMPで言うところの等高線)も加えていますが、今年と昨年で違いが見てとれます。特に今年の等高線を見ると、2つのグループに分かれていることがわかります。
次に、昨年と今年の打球速度と角度の分布を詳しく見ていきましょう。下図の上側のグラフ(青色)が打球速度の分布、下側のグラフ(赤色)が打球角度の分布を示します。参考として、昨年と今年の平均を折れ線で示しています。
打球速度の平均は今年も昨年ともに175.5km/hで同じですが、今年の方がばらつきが大きくなっています。一方で、打球角度は平均的に今年の方が高く(昨年27.9°、今年30.0°)、今年の方がばらつきが大きくなっています。
今年のホームランを2つのグループに分類
今年の打球速度、角度について、(階層型)クラスター分析を用いて2つのグループに分類しました。
グループ1(オレンジ色、N = 25):LA: High、EV: Low (平均的に)打球速度が遅く、角度が高いグループ
グループ2(紫色、N = 29):LA: Low、EV: High (平均的に)打球速度が速く、角度が低いグループ
グループ1は高い放物線を描いてホームランになったケース、グループ2は速い打球速度でライナーに近い形でホームランになったケースです。
野球には「バレルゾーン」と呼ばれる、打撃の効率性を打球速度と角度で測る指標があります。この指標によると、打球速度が速い場合は角度の影響が少ないですが、打球速度が遅い場合は適切な角度が求められます。例えば、打球速度98マイル(158km/h)の場合、26~30°がバレルゾーンですが、116マイル(187km/h)の場合は8°~50°がバレルゾーンになります。
この考え方に基づくと、グループ1はバレルゾーンを外れるホームランがいくつもあり、効率的な打撃でなかったものの、ホームランになったケースがあると言えます。
ホームランの軌道を分ける要因は?
では、この2つのグループを分ける要因として考えられるものは何でしょうか? 分かりやすそうなものとして、次の6つを挙げてみました。
変数 |
尺度 |
説明 |
First half/Second half |
名義 |
オールスター前の試合(First half)、後の試合(Second half) |
release_speed |
連続 |
(ホームランを打った球の)球速 |
release_spin_rate |
連続 |
(ホームランを打った球の)回転数 |
p_throws |
名義 |
相手投手の左右 |
Strike/Ball |
名義 |
打った球のゾーン(ストライク、ボール) |
Home/Away |
名義 |
ホームゲーム、アウェイゲーム |
これらの変数と、先ほど述べたホームランのグループとの関係を調べました。
まずは、[二変量の関係」を用い、Yに(ホームランの)グループ(名義尺度)、Xに上記6つの変数を指定します。Xが連続尺度の場合は「ロジスティックであてはめ」のレポートが、Xが名義尺度の場合は「分割表分析」のレポートが表示されます。ここでは表示される6つのレポートのうち、[適合度の良い順に表示]のオプションを実行したときの上位2つを示します。
左側のロジスティック回帰のレポートでは、X軸は球速(release_speed)です。球速が速いほど、グループ2(打球速度が速く、角度が低い)に分類される確率が高くなることがわかります。これは、球速が速いほど打ち返す打球速度も速くなることを示しているかと思います。
右側の分割表分析のレポートは、オールスター前(First)にグループ2の割合が高かったのに対し、オールスター後(Second)ではグループ1の割合が高くなっていることがわかります。ただし、統計的に有意な差はありません。
これらの結果を踏まえ、「パーティション」(決定木)によりグループの違いを予測する分岐を行いました。
大谷選手が54本もホームランを打ったことは素晴らしいことですが、パーティションで使用するデータとしてはやや少ないかもしれません。しかし、あくまで探索的な分析として、結果の一部を示します。最初は球速(79.7マイル)で分岐し、その後、球速が79.7マイル以上のグループでオールスター前後の試合で分岐します。
球速が79.7マイル以上の49個のホームランデータのうち、左側のグループはグループ2の割合が高い(=0.6923)、右側のグループはグループ1の割合が高い(=0.5217)ことがわかります。
つまり、球速が速いケースでも、オールスター後では打球速度が遅く、角度が高い打球がホームランになるケースが多くなっているということです。
そこで、打球速度と角度のグラフを「虫めがねツール」を用いて拡大し、プロット点をホームランの番号(号)に変更してみました。オールスター明けの最初は25号ですが、グループ1には25号以降のホームランが多く含まれています。
シーズン後半に高い軌道のホームランを何度か見た覚えがある、という方もいるかもしれません。
なお、ホームランに限らない、今年の大谷選手のバレル率(バレルゾーンに入った打球の割合)はメジャー全体で2位(21.5%)であり、ヤンキースのジャッジ選手に次ぐ成績です。シーズンを通して効率的な打撃をしていることがわかりますが、今年のホームランに限って言えば、効率的でない打撃でもホームランになったケースが増えているようです。これもまた、大谷選手の圧倒的なパワーを示しているのでしょうか?
by 増川 直裕(JMP Japan)
Naohiro Masukawa - JMP User Community
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