ニュース等で ”季節外れの暖かさ“と聞いても、最近はあまり驚かなくなりました。しかし、今年3月の東京近辺は特に暖かいなと感じた日が多かったです。近所の桜がいつもになく早く咲いていたので、あー、季節の変わり目が早いなあと感じました。
本ブログは、グラフビルダーの開発者であるXanさんの投稿から影響を受けています。その投稿とは、京都の桜の開花日を西暦812年から現在までまとめられたグラフです。(桜のマーカーはキレイですので、是非ご覧ください。)
Kyoto cherry blossom peak bloom day since the year 812
https://public.jmp.com/packages/J_rDc8JMMdjJBJDf7fMbF
このグラフに描かれている平滑線をみると、19世紀の後半から現在まで、桜の開花日が急激に早まるトレンドがあることがわかります。
桜の開花日は、その地域の2月1日からの日平均気温の合計が400℃になる日が目安となる「400℃の法則」が有名です。そのため、開花の早い遅いは、2,3月の気温が影響していると考えられます。
そこで、1970年から現在(2021年)まで、2,3月における京都の平均気温を調べてみました。
下図は、年ごとに2月の平均気温(オレンジ色)、3月の平均気温(赤色)を折れ線と平滑線(トレンドをみる線)で示したものです。(データの出典:気象庁)
平滑線より、近年2, 3月の平均気温は上昇傾向にあることがわかりますが、特に2010年以降、3月は急激に上昇しており、今年2021年3月の平均気温は11.6℃と、1970年以降で、最も高くなっています。
では、これら気温の年ごとの変化を調べるために、工程管理で用いられる管理図を用いてみたらどうでしょう。管理図はさまざまな種類がありますが、そのうちの一つであるEWMA管理図は小さいシフト(変化)も検出できるので、グラフで見た気温の上昇トレンドが検出できるかもしれません。丁度、JMP 16でEWMAはさまざまな機能追加があるので、使ってみるほか考えられません。*
(*同じように、小さなシフトを検出する管理図としてCUSUM(累積和)管理図があります。)
EWMA管理図とは
EWMA管理図は、指数加重移動平均(Exponentially Weighted Moving Average)管理図の略です。通常のX管理図は、その時点での値をプロットするのに対し、EWMA管理図では、その時点での値は、過去の値にも依存してきます。依存の度合いが直近であるほど大きく、過去に遡るにつれて指数的に依存の度合いを小さくします。
Xiをi時点での値としたとき、EWMA管理図のi時点での値 Zi は、その1時点前の値Zi-1と、ユーザが指定する重みパラメータλ(lambda)を用いて、次の式で計算されます。
Zi = λ Xi + (1-λ) Zi-1
JMPのデフォルトではλの値は0.2ですが、このときEWMA管理図では、20%を現在の情報、残りの80%を過去の情報を用いて値をプロットしていることになります。
式の性質から、過去に遡るほど、用いる情報の量(重み)は指数的に減少します。下図はλ = 0.2 としたときの、現時点(0時点)に対する、過去の時点の重みを示しています。
現時点では0.2の重みがありますが、1時点前(-1)、2時点前(-2) と過去に遡るにつれて、重みが指数的に減少していることが分かります。
EWMA管理図を用いて工程管理をすると、工程における小さなシフト(変化)を検出しやすくなると言われています。そこで以降では、上記に示した2, 3月の京都の平均気温についてEWMAを描いてみます。
JMP 16のEWMA管理図
JMPでは以前からEWMA管理図を描くことができましたが、JMP 16ではインターフェイスが変更され、大幅に良い機能が追加されました。主な追加機能は以下の通りです。
- EWMA管理図とともに、X管理図、残差の管理図も表示する。
- レポートにあるコントロールパネルにより、λ(lambda) やσ(sigma)を変更し、インタラクティブに管理図に反映する。
- 変化の開始点を検出できる。
京都の平均気温に対するEWMA管理図(2,3月)
まずは2月のEWMA管理図です。
図は上から下にかけて3つ描かれていますが、上から順に、EWMA管理図、X管理図(気温の値そのものを用いた管理図)、残差の管理図です。
残差の管理図は、ある時点のX管理図の値から、1時点前のEWMA管理図の値を引き算で計算される残差をプロットしたものです。例えば、2010年の残差は、2020年の値から2019年のEWMAの値を引くことにより算出できます。
左側の「設定パネル」に入力されている値は、次の通りです。
目標値:データの平均値。(EWMA管理図、X管理図にある緑色の線)
Sigma : バラつきを示す値(σ)。データから推定される。
Lambda: 上記で説明した重み(デフォルトは 0.2)
赤色の線は、3σ(シグマ)で計算される管理限界線です。
真ん中のX管理図をみると、見た目ではそれらしきトレンドを発見することができません。しかし一番上にあるEWMA管理図をみると、70,80年代にかけての下降トレンド、2018年以降の上昇トレンドを確認することができます。ただ、どの年も管理限界線は超えていません。
ちなみにEWMA管理図の右上にプロットされている青色の点は、2022年の予測値です。
次は3月のEWMA管理図です。分かりやすいトレンドが見てとれます。
X管理図は2021年に上側の管理限界の外に出ています。EWMA管理図では2010年代に上昇トレンドが見てとることができ、2020年に管理限界の外に出ています。
EWMA管理図に引かれている紫色の線は、シフトが起こった開始点を示します。2月の平均気温では検出できませんでしたが、3月の平均気温では小さな変化を検出できているのです。
ここでは示しませんが、東京の平均気温でも同じような傾向を示す管理図が描かれます。近年3月でも暖かく、桜が咲くのが早いなあと感じる感覚は、EWMA管理図の上側に向かうトレンドが証拠となるでしょう。
JMP 16のEWMA管理図では、左にある「設定パネル」から、目標値、sigma, Lambdaの設定を変更すると、即座に管理図がその設定で描かれます。下図は、3月のEWMA管理図でLambdaを0.1に変更したときのものです。つまり、過去のデータの依存度を高めると、結果として今年(2021年)が上側管理限界の外に出ます。
環境問題として考えると
寒いのが苦手な方には、早く暖かくなるのは有難いことかもしれませんが、地球温暖化が進んでいる結果みなすと、手放しに喜んでいるわけにはいきません。
現在の国際的な環境の取り組みに関して”パリ協定”が有名ですが、それより前の協定として、今回話題とした京都で定めた”京都議定書” があります。京都議定書は1997年に地球温暖化対策として採択されましたが、あれから20年以上たった今でも、効果的な対策が取られていないと言わざる得ない状況が続いています。
アメリカでバイデン大統領が就任し、今年2月にパリ協定に復帰しましたが、これからが温暖化を食い止めるための重要な局面だなと感じます。
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