医薬品開発において「溶出試験」とは、薬が体の中でどのような挙動を示すかを、試験管内で調べる試験のことを指します。
例えばジェネリック医薬品では、有効成分は同じでも、添加物や製造方法などの処方が変更されることがあります。その際、一定時間ごとに溶出率(有効成分が溶け出した割合)を測定し、変更前の製剤と変更後の製剤を比較して、溶出の傾向が類似していることを示す必要があります。
下図は、横軸を時間(分)、縦軸を溶出率とした、溶出曲線と呼ばれるものです。pH4.5、pH6.0、または水(Water)を試験液として用いた場合について、試験製剤(Test)と標準製剤(Reference)の時間ごとの溶出率をプロットし、折れ線で結んでいます。

*実際にY軸にプロットされている点は、複数のサンプル製剤の溶出率の平均値となります。
3種類の試験液における2つの曲線を比較すると、時間とともに溶出率が上昇し、100%に近づくといった似た挙動を示していますが、2つの曲線が完全に重なっているわけではなく、時間によっては差が見られる箇所もあります。
また、pH4.5やpH6.0の曲線と比べると、水の曲線の方がより類似しているように見えます。
ここまでは、グラフを見たときの類似性の解釈でしたが、複数の溶出曲線の類似性を客観的に判定する指標は、さまざまなものが提案されています。
本記事では、その判定基準として広く用いられているf2という関数を用いる方法と、JMPでその値を算出する方法を紹介します。
さらに、JMPではf2の値とともに、f2の信頼区間を算出できます。推定値そのもので類似性を判断するのではなく、算出した信頼区間の下限が判定基準値(=50)を上回っているかを確認することで、不確実性を考慮した類似性の判定が可能です。
F2分析
F2分析では、試験製剤群と標準製剤群の各時点における溶出率の値から、次の式によってf2の値を求めます。

数式中のR_t、T_tはそれぞれ時点tにおける試験製剤群および標準製剤群の溶出率の平均値を表します。
この式で算出されるf2の値が大きいほど、溶出挙動の類似性が高いと判定されます。すべての比較時点で溶出率の差が0(ゼロ)の場合、対数の中の分母は1となり、右辺の対数部分は2となるため、f2の値は100(=50×2)となります。
類似しているとみなすための一つの基準として f2 = 50 が用いられ、JMPでもこの値を基準として採用しています。
ただし、「経口固形製剤の処方変更の生物学的同等性試験ガイドライン」や「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」では、標準製剤がどの時間帯でどの程度溶出するかによって、f2 の判定基準が異なることが記載されているため、注意が必要です。
JMPでの操作
JMPでf2の値を算出するには、[曲線のあてはめ]プラットフォームのオプションを用います。ここでは、例をもとにJMPでの操作方法を説明します。
試験液の種類(pH4.5, pH6.0, Water)ごとに、f2の値を算出することにより、試験製剤と標準製剤の溶出曲線の比較をします。
冒頭に示した溶出曲線のグラフは、次のデータから作成したものです。試験液の種類(pH4.5、pH6.0、Water)および製剤の種類(Test, Reference)ごとに、6つの製剤(ベッセル)を用い、0、5、10、15、・・・、240、360(分)の時点で溶出率の測定しています。

| 列名 |
意味 |
| pH/Water |
試験液の種類(pH4.5、pH6.0、Water) |
| Drug |
製剤の種類(Test: 試験製剤、Reference:標準製剤) |
| Tablet sample |
製剤のサンプル番号(1~6) |
| Minutes |
時間(分) |
| % Release |
溶出率(%) |
※このサンプルデータは本ブログからダウンロードすることができます(DissolutionData_Stacked.jmp)。
操作
1. [分析] > [発展的なモデル] > [曲線のあてはめ]を選択し、次のように列を指定します。[グループ化]には曲線の比較対象を識別する列(この例では「Drug」)を指定し、試験液ごとに分析するため、[By]に試験液を識別する列(この例では「pH/Water」)を指定します。

2. By変数の水準ごとにレポートが表示されます。レポート左上「曲線のあてはめ」の赤い三角ボタンから [F2分析]のオプションを選択します。

3. 表示される「溶出曲線の推定」のウィンドウで、個々の製剤(ベッセル)を識別する列(この例では「Tablet sample」)と、Drugの標準群(この例では「Reference」)を指定します。

以上の操作により、各試験液ごとの「F2分析」レポートが表示されます。
F2分析のレポート
■「pH4.5」の場合
レポートには、群ごとの溶出曲線および時間ごとの統計量(平均、標準偏差、変動係数(CV))が表示されます。

色が黄色で強調している箇所は、次の条件にあてはまるものになります。
- 試験群に、平均溶出量が85%を超える時点が2 つ以上ある。
- 試験群の最初の時点におけるCV値が20%を超えている。
- 試験群の最初の時点の後に、CV値が10%を超える時点がある。
このレポートの下には、f2値に関するレポートが表示されます。「観測されたF2」(=45.081)が前節の式により算出されたf2値です。ブートストラップ法により製剤をリサンプリングしてf2のブートストラップ分布を求め、BCa法(バイアスを補正する方法)を用いて、90%信頼区間の下限と上限を算出しています。

この例では、f2の推定値は45.081、90%信頼区間は [43.638, 46.509]となります。
JMPでは f2 = 50 を基準としており、90% 信頼区間の下限が 50 以上であれば、ばらつきを考慮しても f2 が 50 を超えていると判断します。本例では下限が 43.638 と 50 を下回っているため、2つの曲線は類似しているとは言えないと結論づけられます。
■「pH6.0」の場合
f2の推定値は50.208、90%信頼区間は[48.103, 52.293]です。

f2の推定値自体は50をわずかに超えていますが、信頼区間の下限が 50 を下回っているため、不確実性を考慮すると類似しているとは言えません。信頼区間の下限は48.103であり、この値は50を超えていません。
■「Water」の場合
溶出曲線を見ると、pH4.5 や pH6.0 の場合と比べ、試験製剤群(Test)と標準製剤群(Reference)の曲線はより類似しているように見えます。f2 の推定値は 55.096、90% 信頼区間は [51.316, 60.548] です。

90% 信頼区間の下限が 50 を超えているため、この場合は 2 つの曲線が類似していると結論できます。
ここまでの F2分析 の結果をグラフでまとめたものを示します。縦軸にある点線は、F2 の値が 50 の位置に引いています。この図からも、Water のみが、90% 信頼区間の下限が 50 を超えていることがわかります。

他の比較手法について
ここまで紹介した F2分析は、特定の曲線を仮定しないノンパラメトリックな手法です。F2分析以外にも、溶出曲線を比較する方法はいくつかあり、JMP には「F1分析」「多変量距離」「T2EQ」の手法が搭載されています。

このうちT2EQは、多時点の溶出率の差を測る統計量T2を用い、その差が同等性(EQ)の範囲内にあるかを検定する方法です。T2EQでは、類似性を判断するために信頼区間を使用するのではなく、検定統計量のp 値が計算されます。このp 値が指定された有意水準より小さい場合、試験製剤は標準錠剤と類似していると見なします。
本例で Water に対して T2EQ を適用すると、p 値は 1 となり、2つの曲線が類似していることを示唆しない結果となります。これは F2分析の結論とは異なる点です。

by 増川 直裕(JMP Japan)
Naohiro Masukawa - JMP User Community
DissolutionData_Stacked.jmp
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