レベル:初級
発表タイトル:空間データおよび形態解析ツールとしてのJMP―最短距離法クラスター分析を用いた上気道上皮内癌とその前駆病変のGradingの試み
口腔,咽頭や喉頭など上気道粘膜の悪性腫瘍の多くは粘膜の表面を覆う重層扁平上皮という細胞の層に発生する扁平上皮癌である.さらにこの前段階ないし初期と考えられる病変が粘膜の白色ないし赤色の局面として見出されることが臨床的に知られており,患者から採られた組織の顕微鏡標本の観察によりそれぞれ上皮異形成epithelial dysplasia,上皮内癌carcinoma in situと名付けられている.さらに異形成は細胞形態の異常とそれらが上皮層内に占める比率に応じて変化の軽いものから軽度mild,中等度moderateおよび高度severeのグレードに三分されている.この鑑別は病理医の視察により直観的に行われ,ある程度の再現性を有しているものと考えられるが,客観的な検討は多くない.今回上皮層における細胞(核)の配置を定量化し,非腫瘍性(正常),異形成,上皮内癌でどのような差異があるか検討を試みた.デジタル画像解析により顕微鏡写真上で細胞の核の重心座標を抽出し,JMP ver.15の最短距離法の階層的クラスター分析を用いて各重心をつなぐ最小木(Minimum spanning trees; MST)を生成させ,各枝の長さのヒストグラムを比較検討したところ,各群の間に差異が見出された.
千場 良司
東北大学元講師(加齢医学研究所病態臓器構築研究分野).医学博士.元文部省在外研究員(医学)(デンマーク王国オーフス大学).
人体病理学の領域において疾患の病理発生過程を幾何確率論や積分幾何学を応用した定量形態学,デジタル画像解析および多変量統計解析を用いて研究してきた.肝硬変,肺胞上皮,膵管上皮および子宮内膜に発生する早期癌とその前駆病変や癌の肝転移に関する研究論文がある.
(https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7804428/ , https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7804429/, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8402446/ , https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/8135625/, https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/7840839/ , https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10560494/)
癌の発生過程やその組織診断の観点からそれらの解析に応用可能な数理的手法に興味があり,クラスター分析や判別分析などの数値分類法に特に関心がある.統計解析のプラットフォームとしてはメインフレーム上のFortran統計サブルーチン,PC上のSPSSやSYSTATなどを経て優れたデータテーブルの機能と柔軟な分析環境に注目しバージョン8からのJMPユーザーである.
千場 叡
公立はこだて未来大学システム情報科学部複雑系知能学科卒.在学中は物理化学反応における複雑系現象に興味を持ち,アミノ酸熱重合物のアルコール液相中におけるカプセル形成機構に関する実験と研究を行った.現在はデジタル画像解析,データサイエンスおよびニューラルネットワークを用いた形態および画像の認識や分類にも関心を持っている.